1996年3月1日金曜日

書評 『日本株式会社を創った男 宮崎正義の生涯』

1996/3


(財)海外投融資情報財団「海外投融資」1996/3号掲載
 
 日本株式会社を創った男
   ー宮崎正義の生涯ー
 発行日 1995/2  (254頁)
 価格 2,300円 本体2,233円
 著者 駒沢大学教授 小林英夫 こばやし・ひでお
 発行所 小学館


先が見えにくい不透明な時代には、おぼつかない足下をかためる意味でも、おのれのルーツを確かめたくなるものだ。行き詰まりを見せているかのような、この日本型といわれる経済システムの、そもそもの起源はいったいどのようなものであったのか。

著者は、現代日本経済システムの源流は昭和一〇年代に遡ると考える研究者グループにする歴史家である。このいわゆる四〇年体制論についてはすでに多くの分析が書かれている。でも具体的に誰が、どこで、このシステムを考えだし、創り上げたのか。それについてはまだあまり知られていなかったように思う。

その起源は満洲国にあり、このシステムを考え出したしたのは、宮崎正義という人物であったという。本書は、今日までほとんど知られることのなかったこの宮崎正義という人間に焦点をあてて、彼の生涯と日本型経済システムの形成における彼の果たした役割と意味を、豊富なデーターをもとに明らかにしたものである。

宮崎正義とは満鉄の調査部員である。金沢の貧しい氏族の三男として生まれるが石川県の官費留学生としてペテルスブルグ大学に学ぶ。その時ロシア革命を目のあたりにする経験もした。帰国後、満鉄に入社し調査部でソ連情勢を一貫して研究し、計画統制経済の分野で第一人者となるのである。

当時のソ連は計画経済のもとに脅威的なスピードで国力の増強を押し進めていた。関東軍で指導的立場にあった石原莞爾は、当面はソ連の脅威に備える意味で、また長期的には彼の仮説である世界最終戦争に備えるために、経済力の充実が急務と考える。しかし経済のことは軍人である石原には手が出せない。統制経済に詳しい宮崎を経済政策ブレーンにむかえて官僚主導型の経済統制システム立案させるのである。

�このようにして立案された統制経済システムは満洲国でまず具体化されるが、やがて日・満経済をグローバルに包含するシステムに拡大される。さらに、この統制システム実施を強力に推進した岸信介、椎名悦三郎植村甲午郎などの人物が戦後も継続して日本�経済における影響力を維持したことにより、ステムは敗戦後も生き残り、今日の日本型システムへと成長してゆくのである。本書では、この過程が綿密に具体的に明らかにされる。自由経済主義者で財界出身の政治家小林一三が、計画経済論者で官僚の岸信介をするくだりなど、戦後、岸信介が保守反動の代名詞とされたこともあっただけにまことに面白い。

日本型経済システムは、いま節目の時を迎えている。改革に頑固に抵抗するこの頑強そのもののように見えるシステムも、実はひとりの人間の立案によるものだったと云う事実に、今さらながら驚かされるのである。

宮崎は当時においてもっとも勢いのあったソ連経済からその長所を学び、当時においては革新的といえる斬新な_日本型システムを創案した。グローバル化が進み自由競争型経済の強さが顕著に目立つ現代において、彼がもし生きて居れば、どんな新システムを立案をするのであろうか。